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( 香水工場の )

香る生活


香りと脳の関係 (7)・・・香りで痩せる
グレープフルーツの香りにダイエット効果があることがわかり、2002年頃、ちょっとした「香りダイエット」ブームが起こりました。香りとダイエットの関係にもやはり脳が大きな役割を果たしています。


センセーショナルだった「香りダイエット」


肥満の原因は、必要以上に脂肪を蓄積すること。だから燃焼させればよいわけです。そこで食事制限しながらスポーツなどカラダを動かす。これがダイエットの基本。ですがダイエットのためだけのスポーツって、ちょっと辛いものがあります。

もし運動しなくて脂肪が燃焼するなら?・・・と思うのは多くの人に共通した心理ですよね。そんなうまい話あるわけないのですが、これがなんとありうる話だったのです。

しかも使用するツールが凄い。グレープフルーツなどのフルーツやハーブ。安心な食材の香りで痩せるとなれば、当然、多くの消費者の関心を引きます。


ダイエットの原理


資生堂さんの「スリミング理論」「新スリミング理論」はそんな夢のような話を実現してくれる考え方です。スリミング(slimming)とはスリム(Slim)になること、つまり痩身法を差します。

一言で言えば、このような考え方です:

・スリミング理論・・・白色脂肪細胞内の中性脂肪はカフェインで分解され、遊離脂肪酸として血中に放出される

・新スリミング理論・・・血中の遊離脂肪酸は、エネルギーとして消費(燃焼)されないと、そのまま中性脂肪に再合成される。しかしUCPがあれば運動なしで消費(燃焼)可能


カネボウさんのラズベリー香りダイエット


同じタイミングでカネボウさんからは、ラズベリーの香り成分(Raspberry Ketone)が体脂肪を分解するとする研究発表がありました。

こちらも食品の香りによるダイエット法で、資生堂・カネボウという日本を代表する化粧品ブランドから続け話題のダイエット商品がマーケットインされたことで相乗効果もあり、しばらく「香りダイエット」に香り業界は沸きました。


UCPが脂肪を燃やす


「新スリミング理論」のキーとなる物質がUCPという体内物質。UCPとはUncoupling protein = カップリングされていないタンパク質、専門用語では「脱共役タンパク質」と言うそうです。

ミトコンドリアの内膜に存在するタンパク質で脂肪燃焼を促進する働きがあるそうです・・・私には、見たことも触ったこともない物質なので、このへんはもう「だそうです」の連続です。

ミトコンドリアは細胞内にあって糖分(ブドウ糖)をベースに活動源になるエネルギーを生産・貯蔵(ATP合成)する、まさに「ヒトのエンジン」。

しかし、UCPは糖分をATP合成には利用せず、熱エネルギーへと変換します。たとえば、冬眠中の動物が体温を維持できるメカニズムの一つがUCPによる発熱と考えられています。

多食しても太らない人や動物は、一般にUCPをたくさん持っている人と言われています。

ですので、UCPを活性化させれば、運動なしに脂肪を燃焼させることができるのではないか!がこの理論のベースとなる考え方であり目標です。以前の話ですが、偶然ですが、たまたまこの研究をされていた研究員の方とお話しする機会がありました。このへんのお話には信憑性を感じました。


戦闘態勢へドライブするノルアドレナリン


UCPが脂肪を燃焼させる効果があるなら、どうやってUCPを増加させるかが問題になります。UCPの増加にはノルアドレナリンが影響しています。

ノルアドレナリンは、一般に脳内ホルモンと呼ばれる神経伝達物質です。ノルアドレナリンは闘争・危険など強いストレス反応として脳内で分泌され臨戦態勢へとカラダをドライブするホルモンです。

同じく強いストレス反応で多く分泌されるアドレナリンは、副腎髄質で分泌され、体内を巡り呼吸数・心拍数・血圧などを上げるホルモンです。アドレナリンとノルアドレナリンは似た分子構造を持っています。

ストレス反応ホルモンであるノルアドレナリンとアドレナリンは、交感神経系の活動によって分泌が促されますが、交感神経自体が、「Fight and Flight(闘争&逃走)」神経と呼ばれるだけに、激しい活動や刺激によりアクティブになります。

よって交感神経系をアクティブにする行為は、脂肪を燃焼させるUCPの生産にも影響が与えるわけですが、その刺激要因の一つが「香り」です。


なぜ香りで痩せるのか?


つまり、香りが脳を刺激し、交感神経を活性化させることで結果的に脂肪が燃焼するというフローチャートができあがります。

1) 香り →
2) 大脳辺縁系を刺激 →
3) 交感神経を活性化 →
4) ノルアドレナリン分泌 →
5) ミトコンドリアないのUCP発現 →
6) 遊離脂肪酸の燃焼 →
7) 脂肪低下

正直「風が吹けば桶屋が儲かる」方式のかなり遠い因果関係ですが、事実なんです。


ダイエットの司令塔は脳


香りは、嗅覚で捕捉され電気信号が伝達されるだけで、香り成分が直接、脳に伝達されるわけではありません。

脳は香りの信号で交感神経を興奮させ、ノルアドレナリンを分泌して結果的に脂肪を燃焼させるわけですから、ここでもダイエットの司令塔は脳自身ということになります。


香りだけではない


しかし、この理論から行けば、交感神経を活性化をすればよいわけで、必ずしも香りである必要はないわけでよね。このブログは、香りの重要性をお伝えすることですが、香りだけがスペシャルにダイエットに効くとも言えない事実もお知らせします。

交感神経を活性化する要因は、定性的にはいろいろあるわけですが、いかにローコストで消費者の負担が少なく、かつ定量的に効果が出やすいモノとして「香り」は有望ということでしょう。


交感神経をアクティブにさせる方法


交感神経のスイッチを押してくるものは日常生活の中にいろいろあります。もちろん、私のイチ押しは「香り」です。しかし、心に刺激を与えるものはおおむね交感神経をオンにしてくれます:

・スポーツ・運動・ストレッチ
交感神経はカラダをドライブさせる役割があるので、逆にカラダをドライブさせことで交感神経もオンになります。とくのゲーム性があるスポーツは、心理的な興奮も加わり刺激があります。

・深呼吸
酸素の吸入。ターボチャージャーのように多少多めの酸素を体内に送り込むことで、交感神経もオンされるようです。具体的にはわかりませんが、そんな気がします。

・楽しい会話、笑い
笑いは酸素の強制吸入を発生させます。ある論文によると楽しい会話や笑いは、その最中では交感神経を刺激し、その後は逆に副交感神経を刺激し、血圧や血糖値を下げカラダをリラックスへとドライブするそうです。

楽しい会話や爆笑後の幸福感・満足感は多くの人が体験しますが、この体験と自律神経系の上記の動作は納得できる話に見えます。

また、食事や睡眠は、リラックス系の刺激であり副交感神経を刺激します。しかし、交感神経 → 副交感神経 → 交感神経といったメリハリがある刺激は、交感神経系全体を刺激するもので全体として好ましい方向に向かうのではないでしょうか。


実際にグレープフルーツの香りでテスト


香りダイエットは、このように交感神経を刺激する香りで脳を刺激して結果的に脂肪を燃焼させようという話でした。

実証的にノルアドレナリンが分泌される香りの種類を調べていくと、資生堂さんではグレープフルーツ・ペッパー・フェンネル・エストラゴン(タラゴン)が効果が出やすいという精油として発表されました。

これ以外にも当然、もっと多数のハーブや精油がテストされていると思われますが、一般にアロマテラピーで交感神経を刺激するとされる精油はおおむね脂肪燃焼にも役立つと予想されます。

というわけで、この話題がネットを回っているとき、私も実際に実験してみました。研究所で行う厳密なテストではなく、消費者レベルでテキトーにやってダイエット効果が出るかというテストです。

これで結果が出れば、俄然おもしろいのですが、数週間、多めのカフェイン摂取と同時にグレープフルーツの香りに囲まれてみましたが、体重の変化は「測定誤差の範囲内」という結論になりました。テスト方法が悪かったと思います。

香りによる刺激という環境設定が、ちょっと難しいとも考えられます。わたしの場合、部屋に精油を香らせるだけでなく、ポマンダー(香り付けしたペンダントのようなもの)を下げておりましたが、常時同じ香りに曝されると脳への刺激は持続しないのではないかと推測しています。


香りの場合、刺激の与え方が問題かも


「一種類の香りが脳を刺激し続ける持続時間と強度」という問題を感じています。人は同じ香りにはすぐに慣れて感じなくなり(嗅覚疲労)、同時に脳内でも刺激を受けなくなることが予想されるからです。

資生堂さんの香りダイエットは、日本コカ・コーラ社も巻き込んでダイエット飲料も発売される盛況ぶりでしたが、ダイエット効果を実感した人は私の周囲ではいませんでした。


ブームは数年で収束しましたが、香りとダイエットの関係が否定されたわけではありません。一般消費者が気楽でテキトーにやってもある程度現実的な効果が出る製品が将来出てくると予想しています。


(続く・・・)


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※この記事は[(7)香りで痩せる]

香りと脳の関係 (8)嗅覚のメカニズム
香りと脳の関係 (7)香りで痩せる
香りと脳の関係 (6)リアルに蘇る記憶
香りと脳の関係 (5)香り成分は脳に届く?
香りと脳の関係 (4)再生可能な嗅神経
香りと脳の関係 (3)香りと脳内血流
香りと脳の関係 (2)香りと認知症
香りと脳の関係 (1)なぜ脳の話
(2015-08-28)
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