( 香水工場の )
香る生活
香りで記憶が蘇るプルースト効果、深掘り
原典小説を読んでみた (2024/06/29)
( 岩波文庫『失われた時を求めて』 )
「プルースト効果」をご存じだろううか? 香りで過去の記憶が臨場感を伴って蘇る現象。
この心理学用語には原典となる小説がある。マルセル・プルースト『失われた時を求めて』(À la recherche du temps perdu)。
この長編小説は1913年からプルーストが亡くなる1922年まで書かれた。完成することなく世を去ったプルーストの大作は弟さんによって最後の完成を見たとのこと。
世界的な評価は文学史上の金字塔とも。世紀の大作なのに長さと難解さゆえに読破できる人がかなり少ないことでも有名。
最後まで読み終えた人の感想はネットやYoutubeにでている、それによると、あっと驚く怒濤の結末、それまで謎に包まれていた数々の伏線が一気に溶解し、無上の感動と歓びが全身を駆け巡るらしい。
そしてこの物語を「もう一度」読みたくなる衝動に突き動かされる。400字原稿用紙1万枚相当の小説をもう一周したくなる?・・麻薬に近い作品である。
主人公が子供時代や青年時代の記憶をたどることで当時のフランスの世相やサロン文化、なかなか泥臭い人間模様・・家族親戚、友人、恋人、愛人たちとの葛藤や歓びが描写されている。
プルースト効果は香水業界で働く私には関心があることながら、小説の方にはあまり関心がなく今まで読まずにいた。
最近どうしたわけか「まあプルースト効果のさわりの部分だけでも・・」という気になった。
フランス語が読めないので岩波文庫の翻訳本を購入した。
プルースト効果の有名な「紅茶に浸したマドレーヌ」の場面は岩波文庫全14巻中の第1巻にあるので、それだけ買ったが、おもしろかったら「続けて読むかも?」・・という期待はなくはなかった。
しかし実際に読み始めると、いきなり挫折感・・これは読みにくい。
第1巻500ページ、分量もあるが、それより内容がぜんぜん頭に入ってこない・・「私」による延々と語られる昔話の独白・・波瀾万丈、スピード感ある展開はない、延々と過去の記憶が格調高く語られる。
ついでに言えばヨーロッパの歴史と芸術にある程度の精通がないと難解な文章がさらに厳しい。どこか遠い異国の知らない人の話だ~という気持ちになる。
日本語訳は数社の違った出版社から刊行されていて翻訳者もそれぞれ違う。
同じ小説を数社の出版社がそれぞれ違う翻訳者で刊行するところにもこの小説の凄さがにじみ出る(それにしても商業的に成り立つのか?と心配になる)
「同じ小説を違う翻訳者が刊行」という点は、英語圏Wikipediaによると英訳本でも同じらしい。
英語タイトルは『In Search of Lost Time』、日本語タイトルは『失われた時を求めて』・・英語も日本語もフランス語タイトルの実に素直な直訳となっている点がおもしろい。
さて本題の「プルースト効果」の話である。
小説『失われた時を求めて』についてここまで書いてくると、スケールがでかすぎて、もはやプルースト効果なんてどうでもいいか?・・という気持ちになってしまったが、ここは気を取り直して書き進めたい。
原典となったプルースト効果の描写部分は、たんに「紅茶に浸したマドレーヌを口にいれた瞬間」の話ではなく、この小説全体のバックボーンを貫く「記憶」というテーマの導入部分で物語全体へのゲート、鳥居的存在だったことを知った。
( 紅茶に浸したマドレーヌを口にいれた瞬間、主人公は幼少の頃、田舎町コンブレーで過ごした夏休みの情景に包まれる・・
ところでフランスの方はマドレーヌを紅茶に入れてぐちゃぐちゃにして食べるんですね、小説で知りました )
しかし私にはそれ以上の発見はなく新しい感動を伝えることはできない。
ただ自分がプルースト効果を話す際、小説の一部分でも実際に読んだということは、ある程度の裏取りをやったという自信になるので、本を買ってよかった。
福岡で浪人生活を送っていた頃の話。予備校近く界隈は「親不孝通り」と呼ばれていた。
受験勉強にいそしむ浪人生が通うには賑わった街だった。しかも博多・中州・天神といった九州最大級の歓楽街に隣接もしくは歩いて行ける距離にあり、映画館、ライブハウス、ゲームセンターなども多かった。
まじめに勉強する人間の方が圧倒的に多かったが、そうでない人間の行く場所にも事欠かなかった街、今から思えば混沌としたカオスな街だったな~と思い返す。
私の場合、焦りはあるが予備校の方はまるでやる気が出ず、授業をさぼり予備校仲間(予備校でも友達はできる)と公園でゴロゴロしたり、一人で昼間から映画館で過ごすことも多かった。
その頃、私はタバコを吸っていた。私の場合タバコは体質的に合わずうまいと感じたことはないが当時は吸っていた。なぜ浪人の頃吸っていたのか今では思い出せない。それ以降は吸わなくなった。
大学に入ると浪人時代のことはすっかり忘れたが、ある日アルバイトで思い出すことになる。
どこかのビルのフロアをピカピカに磨く作業だった、現場に到着すると清掃会社の社長さんと知らない学生数人がいた。
黙々と働いた後の休憩時間、お互い知らない者同士なので沈黙しがちだったが、近くの人から「どう?」とタバコが差し出された。
箱から飛び出した1本をつまみ出し口にくわえて火を付けた。
その瞬間、タバコのニオイで不意に浪人時代の記憶が頭の中に洪水のように押し寄せた。親不孝通りをうろついていたときの光景や感情が目の前に拡がる感覚を覚えた。
(恍惚とは?・・こういう瞬間か・・を体験した)
知人やスタッフにプルースト効果の体験事例を聞いてみた。
スタッフの一人は、当社に入社した頃はじめて『藤』の香水をかいだとき、祖母の記憶がフラッシュバックした。おばあちゃんの部屋の鏡台前に自分が立っているかのような錯覚を覚えたという。
また別のスタッフは、どこかのご家庭から漂う夕食の匂いをかいだ瞬間、小さい頃住んでいた自宅がフラッシュバックした。紅く染まった夕暮れの中、田舎道を自転車で疾走する帰宅途中の自分の姿が蘇ったという。
プルースト効果でフラッシュバックする情景はカラーで豪華で、情動的で感情的でリアルさを伴う、追体験の感覚が味わえる点で他の記憶と違う。そして多くの場合、恍惚とした多幸感を伴う。
また同じ体験をしたいと再度同じ香りをかいでも効果が再現されることはほぼない。
蘇る情景が果たして本物なのかそれとも脳が勝手に生成したものなのかよくわからない。
この不意に記憶が蘇る現象は、心理学では「無意思的記憶」「無意図的記憶」「involuntary memory」などの言葉で語られる。
認知症を患った人にもプルースト効果は観察される。そのため逆にプルースト効果を利用した認知ケアを研究されている人々もいるようだ(といってもなかなか意図的に再現できないので、どうなんだろうか?・・)
私の叔母は肺の病気で12時間に及ぶ手術を受けたとき、三途の川を見たと話してくれた。
見たこともない美しい清流がありその周囲には色鮮やかな花々が咲く野原が拡がっていたという。
この体験には香りが介在しないし、おそらく自分の記憶にはない光景を見ている点でプルースト効果とは別物ながら、その臨場感には共通性を感じる。
PTSDはベトナム戦争帰還兵の研究以降マスコミに頻繁に取り上げられるようになった。
戦争体験だけでなく犯罪や性的暴力などあらゆる辛い過去の記憶に対する重度な心的ストレス障害が含まれる。
PTSDの症状の一つとしてフラッシュバックがある。
フラッシュバックは恐怖、苦しみ、怒りなどの辛い記憶が蘇り、かつ事件が現実に今起きている錯覚を伴う心理現象で、当事者には大変な苦痛が伴うという。
意図しない記憶が蘇る点はプルースト効果と似ているが、PTSDのフラッシュバックは大きな苦痛がある点、繰り返される点、治療の必要性があり社会問題化している点でかなり状況が違っている。
私はプルースト効果を語るときフラッシュバックという言葉を使うが、医学用語としてのフラッシュバックはPTSDの症状を指すのでプルースト効果にこの言葉を使うことは適切でないかもしれない。
なお薬物障害にもフラッシュバックという症状がある。こちらも専門外なのでこれ以上は語れない。
プルースト効果は通常、香りに起因する現象を指すが、味覚や音楽でも同じ効果が観察される。
グルメ漫画『美味しんぼ』には、料理の味で小さい頃の情景を思い出して涙する人の描写がシリーズを通して何度かでてくる。これもプルースト効果ではないかと感じる。
( 美味しんぼ 公式チャンネル 第24話 )
実は『失われた時を求めて』の「紅茶に浸したマドレーヌ」部分の原文には香りは明記されていなかった・・
「口蓋」(こうがい)とは口の中の上の部分だから素朴に読めば味覚でプルースト効果を体験していることになる。
音楽によるプルースト効果は直接体験談を聞いたことがないが、これもあるらしい。
みなさまもプルースト体験談されたことありませんか?
みなさまのプルースト体験談をぜひお聞かせください。ご協力いただける方は下の「コメント投稿」ボタンにて。
・どんな時どんな記憶が蘇りましたか?
このブログ記事に掲載させていただきます。
2024/07/10 (Wed) 18:04:09
饅頭とワイン
・コメント:
ワイナリーを見学しに行った時。たくさんの酒樽やワインの瓶などが貯蔵されている場所に入ると甘い香りがして、休みになると遊びに行っていた、亡くなった祖母の家を思い出しました。
祖母は酒饅頭の店を長年営んでおり、家の中に独特の酵母の香りが染み付いていたせいではないかと思います。子供の頃の様々な記憶が蘇り懐かしくなりました。
・・チャコ
(国分) ワイナリーにはカビ臭いニオイがありがちですが、麹・糀や酵母のニオイだったりして奥が深い。酒饅頭の工場は経験がないのですが、酒饅頭も麹による発酵課程が伴うので日本酒の蔵と共通した香りが漂うのでしょうか? こちらもノスタルジー漂うお話ですね・・
2024/07/10 (Wed) 07:43:08
ブルースト効果の体験談
・コメント:
雨が降りそうな時によくある土や草っぽい独特の香りを感じた瞬間、小学生時代の教室を思い出しました。
授業中に窓から見える灰色の薄暗い空を、蛍光灯で明るく照らされた教室の中からぼんやり眺めていた光景が鮮明に蘇りました。
・・
(国分) 雨が降る前と降り出したときの雨の独特なニオイは印象的ですよね、子供心に雨の香りが深い記憶として脳内に焼きついたのでしょうか
2024/07/09 (Tue) 16:50:48
プルースト効果
・コメント:
最近はあまり感じなくなったのですが、何故かトルコ行進曲を聞くと、幼稚園の時に見た夢を思い出します。それは、青いケロイドみたいな状態の手だけが追いかけて来る夢です。かなり怖かったのを覚えています。特にピアノを習っていたわけでもないのに。今でもその曲は好きではありません。
後は、沈丁花の花の香りを嗅ぐと、就職したての頃の会社近くの雨の交差点を思い出します。
・・ぷよ
(国分) 「雨の交差点」がリアルな響き。音楽と夢がリンクする事例は何か事情がありそうで心理学を学んでいる人などには興味深い話ですね・・
2024/07/09 (Tue) 14:45:38
灯油の香り
・コメント:
灯油のにおいをかぐと、子供の頃にはじめて灯油ストーブで過ごした、東北の冬がフラッシュバックします。
灯油ストーブをつけて、タタミにじかに座って小さなテレビでゲームしてたのですが、今でも灯油の香りが一種スイッチとなって、いっしょに青いタタミのにおいも思い出します。
・・おくば
(国分) 九州でも冬は寒く私の家でも灯油ストーブで暖を取っていました。私は子供の頃、灯油やガソリンのニオイが好きでした。灯油で畳の青い匂いが蘇る部分は記憶再生の連鎖反応みたいでおもしろい
2024/07/06 (Sat) 13:12:18
母の香り
・コメント:
かつて暮らした母が好んで使っていた香水は今は廃盤になった。
ても、母が好んだ香りだから覚えている。香水も廃盤が多い。
でも、その香水をつけていた静謐な佇まいの母親を思い出す。
香水の名を聞くだけで。
・・まずハマナス
(国分) 香水の名前だけで思い出されるんですね。プルースト効果の劇的な記憶再生というよりノスタルジー溢れる記憶ですね、こういう記憶はプライスレスな財産・・
(2024-06-29)
( 岩波文庫『失われた時を求めて』 )
小説『失われた時を求めて』
「プルースト効果」をご存じだろううか? 香りで過去の記憶が臨場感を伴って蘇る現象。
この心理学用語には原典となる小説がある。マルセル・プルースト『失われた時を求めて』(À la recherche du temps perdu)。
この長編小説は1913年からプルーストが亡くなる1922年まで書かれた。完成することなく世を去ったプルーストの大作は弟さんによって最後の完成を見たとのこと。
世界的な評価は文学史上の金字塔とも。世紀の大作なのに長さと難解さゆえに読破できる人がかなり少ないことでも有名。
難解だが歓びが深いらしい
最後まで読み終えた人の感想はネットやYoutubeにでている、それによると、あっと驚く怒濤の結末、それまで謎に包まれていた数々の伏線が一気に溶解し、無上の感動と歓びが全身を駆け巡るらしい。
そしてこの物語を「もう一度」読みたくなる衝動に突き動かされる。400字原稿用紙1万枚相当の小説をもう一周したくなる?・・麻薬に近い作品である。
主人公が子供時代や青年時代の記憶をたどることで当時のフランスの世相やサロン文化、なかなか泥臭い人間模様・・家族親戚、友人、恋人、愛人たちとの葛藤や歓びが描写されている。
なぜ今さら?
プルースト効果は香水業界で働く私には関心があることながら、小説の方にはあまり関心がなく今まで読まずにいた。
最近どうしたわけか「まあプルースト効果のさわりの部分だけでも・・」という気になった。
フランス語が読めないので岩波文庫の翻訳本を購入した。
プルースト効果の有名な「紅茶に浸したマドレーヌ」の場面は岩波文庫全14巻中の第1巻にあるので、それだけ買ったが、おもしろかったら「続けて読むかも?」・・という期待はなくはなかった。
しかし実際に読み始めると、いきなり挫折感・・これは読みにくい。
挫折
第1巻500ページ、分量もあるが、それより内容がぜんぜん頭に入ってこない・・「私」による延々と語られる昔話の独白・・波瀾万丈、スピード感ある展開はない、延々と過去の記憶が格調高く語られる。
ついでに言えばヨーロッパの歴史と芸術にある程度の精通がないと難解な文章がさらに厳しい。どこか遠い異国の知らない人の話だ~という気持ちになる。
複数の出版社が出版
日本語訳は数社の違った出版社から刊行されていて翻訳者もそれぞれ違う。
同じ小説を数社の出版社がそれぞれ違う翻訳者で刊行するところにもこの小説の凄さがにじみ出る(それにしても商業的に成り立つのか?と心配になる)
「同じ小説を違う翻訳者が刊行」という点は、英語圏Wikipediaによると英訳本でも同じらしい。
英語タイトルは『In Search of Lost Time』、日本語タイトルは『失われた時を求めて』・・英語も日本語もフランス語タイトルの実に素直な直訳となっている点がおもしろい。
プルースト効果を語ろう~
さて本題の「プルースト効果」の話である。
小説『失われた時を求めて』についてここまで書いてくると、スケールがでかすぎて、もはやプルースト効果なんてどうでもいいか?・・という気持ちになってしまったが、ここは気を取り直して書き進めたい。
原典となったプルースト効果の描写部分は、たんに「紅茶に浸したマドレーヌを口にいれた瞬間」の話ではなく、この小説全体のバックボーンを貫く「記憶」というテーマの導入部分で物語全体へのゲート、鳥居的存在だったことを知った。
( 紅茶に浸したマドレーヌを口にいれた瞬間、主人公は幼少の頃、田舎町コンブレーで過ごした夏休みの情景に包まれる・・
ところでフランスの方はマドレーヌを紅茶に入れてぐちゃぐちゃにして食べるんですね、小説で知りました )
しかし私にはそれ以上の発見はなく新しい感動を伝えることはできない。
ただ自分がプルースト効果を話す際、小説の一部分でも実際に読んだということは、ある程度の裏取りをやったという自信になるので、本を買ってよかった。
私のプルースト効果体験
福岡で浪人生活を送っていた頃の話。予備校近く界隈は「親不孝通り」と呼ばれていた。
受験勉強にいそしむ浪人生が通うには賑わった街だった。しかも博多・中州・天神といった九州最大級の歓楽街に隣接もしくは歩いて行ける距離にあり、映画館、ライブハウス、ゲームセンターなども多かった。
まじめに勉強する人間の方が圧倒的に多かったが、そうでない人間の行く場所にも事欠かなかった街、今から思えば混沌としたカオスな街だったな~と思い返す。
私の場合、焦りはあるが予備校の方はまるでやる気が出ず、授業をさぼり予備校仲間(予備校でも友達はできる)と公園でゴロゴロしたり、一人で昼間から映画館で過ごすことも多かった。
タバコ
その頃、私はタバコを吸っていた。私の場合タバコは体質的に合わずうまいと感じたことはないが当時は吸っていた。なぜ浪人の頃吸っていたのか今では思い出せない。それ以降は吸わなくなった。
大学に入ると浪人時代のことはすっかり忘れたが、ある日アルバイトで思い出すことになる。
どこかのビルのフロアをピカピカに磨く作業だった、現場に到着すると清掃会社の社長さんと知らない学生数人がいた。
黙々と働いた後の休憩時間、お互い知らない者同士なので沈黙しがちだったが、近くの人から「どう?」とタバコが差し出された。
箱から飛び出した1本をつまみ出し口にくわえて火を付けた。
その瞬間、タバコのニオイで不意に浪人時代の記憶が頭の中に洪水のように押し寄せた。親不孝通りをうろついていたときの光景や感情が目の前に拡がる感覚を覚えた。
(恍惚とは?・・こういう瞬間か・・を体験した)
プルースト効果、他の事例
知人やスタッフにプルースト効果の体験事例を聞いてみた。
スタッフの一人は、当社に入社した頃はじめて『藤』の香水をかいだとき、祖母の記憶がフラッシュバックした。おばあちゃんの部屋の鏡台前に自分が立っているかのような錯覚を覚えたという。
また別のスタッフは、どこかのご家庭から漂う夕食の匂いをかいだ瞬間、小さい頃住んでいた自宅がフラッシュバックした。紅く染まった夕暮れの中、田舎道を自転車で疾走する帰宅途中の自分の姿が蘇ったという。
プルースト効果の特徴
プルースト効果でフラッシュバックする情景はカラーで豪華で、情動的で感情的でリアルさを伴う、追体験の感覚が味わえる点で他の記憶と違う。そして多くの場合、恍惚とした多幸感を伴う。
また同じ体験をしたいと再度同じ香りをかいでも効果が再現されることはほぼない。
蘇る情景が果たして本物なのかそれとも脳が勝手に生成したものなのかよくわからない。
この不意に記憶が蘇る現象は、心理学では「無意思的記憶」「無意図的記憶」「involuntary memory」などの言葉で語られる。
認知症を患った人にもプルースト効果は観察される。そのため逆にプルースト効果を利用した認知ケアを研究されている人々もいるようだ(といってもなかなか意図的に再現できないので、どうなんだろうか?・・)
心霊体験
私の叔母は肺の病気で12時間に及ぶ手術を受けたとき、三途の川を見たと話してくれた。
見たこともない美しい清流がありその周囲には色鮮やかな花々が咲く野原が拡がっていたという。
この体験には香りが介在しないし、おそらく自分の記憶にはない光景を見ている点でプルースト効果とは別物ながら、その臨場感には共通性を感じる。
PTSD=心的外傷後ストレス障害
PTSDはベトナム戦争帰還兵の研究以降マスコミに頻繁に取り上げられるようになった。
戦争体験だけでなく犯罪や性的暴力などあらゆる辛い過去の記憶に対する重度な心的ストレス障害が含まれる。
PTSDの症状の一つとしてフラッシュバックがある。
フラッシュバックは恐怖、苦しみ、怒りなどの辛い記憶が蘇り、かつ事件が現実に今起きている錯覚を伴う心理現象で、当事者には大変な苦痛が伴うという。
意図しない記憶が蘇る点はプルースト効果と似ているが、PTSDのフラッシュバックは大きな苦痛がある点、繰り返される点、治療の必要性があり社会問題化している点でかなり状況が違っている。
私はプルースト効果を語るときフラッシュバックという言葉を使うが、医学用語としてのフラッシュバックはPTSDの症状を指すのでプルースト効果にこの言葉を使うことは適切でないかもしれない。
なお薬物障害にもフラッシュバックという症状がある。こちらも専門外なのでこれ以上は語れない。
味や音によるプルースト効果
プルースト効果は通常、香りに起因する現象を指すが、味覚や音楽でも同じ効果が観察される。
グルメ漫画『美味しんぼ』には、料理の味で小さい頃の情景を思い出して涙する人の描写がシリーズを通して何度かでてくる。これもプルースト効果ではないかと感じる。
( 美味しんぼ 公式チャンネル 第24話 )
実は『失われた時を求めて』の「紅茶に浸したマドレーヌ」部分の原文には香りは明記されていなかった・・
お菓子のかけらのまじったひと口が口蓋にふれたとたん、私は身震いし、内部で尋常ならざることがおこっているのに気づいた。えもいわれぬ快感が私のなかに入りこみ・・
「口蓋」(こうがい)とは口の中の上の部分だから素朴に読めば味覚でプルースト効果を体験していることになる。
音楽によるプルースト効果は直接体験談を聞いたことがないが、これもあるらしい。
あなたのプルースト体験をお聞かせください
みなさまもプルースト体験談されたことありませんか?
みなさまのプルースト体験談をぜひお聞かせください。ご協力いただける方は下の「コメント投稿」ボタンにて。
・どんな時どんな記憶が蘇りましたか?
このブログ記事に掲載させていただきます。
2024/07/10 (Wed) 18:04:09
饅頭とワイン
・コメント:
ワイナリーを見学しに行った時。たくさんの酒樽やワインの瓶などが貯蔵されている場所に入ると甘い香りがして、休みになると遊びに行っていた、亡くなった祖母の家を思い出しました。
祖母は酒饅頭の店を長年営んでおり、家の中に独特の酵母の香りが染み付いていたせいではないかと思います。子供の頃の様々な記憶が蘇り懐かしくなりました。
・・チャコ
(国分) ワイナリーにはカビ臭いニオイがありがちですが、麹・糀や酵母のニオイだったりして奥が深い。酒饅頭の工場は経験がないのですが、酒饅頭も麹による発酵課程が伴うので日本酒の蔵と共通した香りが漂うのでしょうか? こちらもノスタルジー漂うお話ですね・・
2024/07/10 (Wed) 07:43:08
ブルースト効果の体験談
・コメント:
雨が降りそうな時によくある土や草っぽい独特の香りを感じた瞬間、小学生時代の教室を思い出しました。
授業中に窓から見える灰色の薄暗い空を、蛍光灯で明るく照らされた教室の中からぼんやり眺めていた光景が鮮明に蘇りました。
・・
(国分) 雨が降る前と降り出したときの雨の独特なニオイは印象的ですよね、子供心に雨の香りが深い記憶として脳内に焼きついたのでしょうか
2024/07/09 (Tue) 16:50:48
プルースト効果
・コメント:
最近はあまり感じなくなったのですが、何故かトルコ行進曲を聞くと、幼稚園の時に見た夢を思い出します。それは、青いケロイドみたいな状態の手だけが追いかけて来る夢です。かなり怖かったのを覚えています。特にピアノを習っていたわけでもないのに。今でもその曲は好きではありません。
後は、沈丁花の花の香りを嗅ぐと、就職したての頃の会社近くの雨の交差点を思い出します。
・・ぷよ
(国分) 「雨の交差点」がリアルな響き。音楽と夢がリンクする事例は何か事情がありそうで心理学を学んでいる人などには興味深い話ですね・・
2024/07/09 (Tue) 14:45:38
灯油の香り
・コメント:
灯油のにおいをかぐと、子供の頃にはじめて灯油ストーブで過ごした、東北の冬がフラッシュバックします。
灯油ストーブをつけて、タタミにじかに座って小さなテレビでゲームしてたのですが、今でも灯油の香りが一種スイッチとなって、いっしょに青いタタミのにおいも思い出します。
・・おくば
(国分) 九州でも冬は寒く私の家でも灯油ストーブで暖を取っていました。私は子供の頃、灯油やガソリンのニオイが好きでした。灯油で畳の青い匂いが蘇る部分は記憶再生の連鎖反応みたいでおもしろい
2024/07/06 (Sat) 13:12:18
母の香り
・コメント:
かつて暮らした母が好んで使っていた香水は今は廃盤になった。
ても、母が好んだ香りだから覚えている。香水も廃盤が多い。
でも、その香水をつけていた静謐な佇まいの母親を思い出す。
香水の名を聞くだけで。
・・まずハマナス
(国分) 香水の名前だけで思い出されるんですね。プルースト効果の劇的な記憶再生というよりノスタルジー溢れる記憶ですね、こういう記憶はプライスレスな財産・・
(2024-06-29)
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