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( 香水工場の )

香る生活


容器デザイナーさん #2
そもそもインダストリアルデザインに求められる大きな条件の一つに量産に耐える生産効率性とコストの問題があります。芸術作品ではないので当然です。薄利多売の傾向が強いトイレタリーは、化粧品よりもさらに厳しい生産性とコスト管理が強いられます。

たとえば、製品化され製造ラインに乗る際、製造プロセスが複雑では量産に向きません。彼の話では、1分間に数百本程度流せる製造上の簡易性を満たした素材・デザインでなけれないけません。素材となる原料は低価格のまま安定供給が見込めるものでなければいけません。

コストを上げずに安定供給できる素材で、分単位で数百本製造可能な形状を満たす。その上でさらに個性を演出。個性を加えるために独特なキャップを作り出しました。見た目に珍しく機能的には引き出して倒すキャップのおかげで製品全体に個性的で優しい印象が生まれました。

しかし、このキャップは難産でした。苦労の自信作は製造部門にあっさり却下されます。

消費者は買ったとき、人によっては商品を上下関係なくショッピングバッグに放り込む。もし逆さまに入れたら「キャップが開いてしまう。中身がこぼれてきたらどうするんだ?現場を知らなすぎる」と叱られました。そこで、キャップにプラスティックシールを掛ける提案をしました。

製造ラインに一工夫いりますが(つまりコストアップの生産効率性の低下)、シール自体のコストアップはごくわずかだったのでこの案は通りました。

ところが、今後は営業部門からクレームです。「お客さまはシャンプーの香りを確かめてから買う。シールしてしまえば香りが確かめられない。現場を知らなすぎる」とまたもや叱られました。

シール自体が消費者に嫌われるとは考えなかった彼らは、消費者にシール案のアンケートを独自に敢行。結果は「清潔感があってスキ」や「衛生上好ましい」という前向きな意見が大半。これを営業部に示してようやくOKをもらうというプロセスがあったそうです。

工業デザイナーに求められる要素は「美しさ」と「機能性」だけではないのですね。

どこまでも美しく誰にとっても使いやすいユニバーサルデザインは、デザイナーの目指すところですが、実際の現場では製造上の制約・コストの問題・他部署との折衝、場合によっては上層部の政治的な意向(どの取引先に製造依頼を行うかなど)などにも影響を受け、曲がりくねって出てくる産物のようです。

それはデザイナーにとって不幸なことなのかお聞きしてみると、意外にも「デザインの完成度を高めてくれる可能性も高い」との意見でした。クレームを付ける人間がただダダをこねるだけの場合は問題ですが、各自が自分の現場に真剣であれば対立もあり相互理解のための過程も必要になる、そういうプロセスからよいものが生まれることも多いそうです。

よい作品は「消費者とコミュニケーションができる作品」

続く・・・ (2007-12-16)
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