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( 香水工場の )

香る生活


香料用のローズ栽培、イラン・トルコ・中国
天然香水として揺るぎない地位にあるブルガリアローズとそのライバルたちについてです。3月に入りました。ブルガリアでは寒さが緩み出し、凍る大地で息を潜めていたローズの苗がまさに力を得たように芽を吹かせようと準備しています。ここから5月収穫までの3ヶ月間は、その年のローズの出来映えを左右する大切な時期です。

ブルガリア「バラの谷」では農家の方々が、晴天と雨天・曇天が理想的な状態とタイミングで訪れることを祈るような気持ちで過ごされていると思います。そして、同じように世界のローズオイル関連関係者が固唾を飲んで待っている時期でもあるのです。

その年のクロップの出来映えがローズオイルの品質に影響するし、近年高騰が続くローズオイルの国際価格が今年どうなるかという大きな要因にもなります。当社の場合、昨年のように価格が30%も上がるようでは会社の死活問題ですし、何より品質の低下は製品の死活問題になります。

去年は北アフリカで発生した熱波が地中海を渡り、イタリア、ブルガリア、ハンガリーなどの東欧・ロシアまでをもを直撃する異常気象に見舞われましたが、そのためローズオイルの生産量も減り、品質自体に若干の衰えが感じられました。

メーカーサイドの立場から言うのは微妙ですが、正直に告白すると今現在お出ししている『ローズ・エッセンス コンシンのジェル』は2007年産ローズオイルを使用しており、2006年産『コンシンのジェル』と比較するとわずかですが香りに「華」が心もち欠けています。

仕方ありません。こういうことも含めて「天然物を使用することの本当の姿」ですので、それをお客さまに理解してもらうことも天然物を使用するメーカーの努めだと思います。そんなわけで私も武蔵野の空を見上げて「今年のバラは、どんな案配だろうか〜」と遠いブルガリアの地に思いを馳せることもあります。商売がかかっていますから。

このように天然物はその年の自然条件や天候によって出来映えに影響が出ることはワインの例を引くまでもなくみなさんもよくご存じだと思いますが、出来映えの違いは産地や自然条件だけではありません。同じ年の同じ産地内でも出来映えにムラはあります。

実際にラベンダーやローズ畑に出向き、出来映えを見ると小さな畑ならまでしも広大な土地に拡がる農場では、畑の端と端では色艶や繁り方に違いがある場合があります。日光や土壌に影響されているのかもしれません。

ブルガリア「バラの谷」で見せてもらったあるバラ畑は同じ農家の畑でしたが、小高い丘に登って見渡すと繁り方に違いが見て取れました。質問してみると品種が違うわけではなく、水はけや土壌に違いがあるのかもしれないと言われました。持ち主もわからないということです。

「産地違い」というレベルではなく、同じ産地の同じ地域の同じ農家の同じ品種でも花の出来映えに違いが生じるわけで、さらに蒸留の仕方や技術力によってもオイルの品質や収穫量はまったく違ってきます。そういうバラつきを少なくし毎年安定した品質に保つための努力の一つがブレンドです。

熟達したブレンダーたちによるブルガリアローズらしいブレンドが、ブルガリア国立バラ研究所にて行われています。ブルガリアでは、1990年初頭共産体制が崩壊するまでブルガリアローズは国家統制品の一つとして集中管理されてきました。

その統制機関がブルガリア国立バラ研究所です。育種や品種改良という研究的な機関でありながら、全国のローズ農家の産物を一カ所に集積し品質の認証と品質管理さらに営業や販路開拓・販売までを行うという、日本でいえばJAと認証機関合と農産物商社を合わせたような機能があります。

経済が自由化された現在ブルガリアではバラ農家は自家や自社のローズ産物をブルガリア国立バラ研究所に必ずしも収納する義務はありませんが、今でも多くのローズオイル、ローズウォーターがバラ研究所に集積され「ブルガリアローズ」の認証を得て全世界に出荷されています。

もちろん、かのエニオ・ボンチェフ蒸留所のように単独ブランドで世界に打って出る元気な蒸留所さんもありますが、ブルガリア国立バラ研究所お墨付き「ブルガリアローズ」も世界のブランドとして認知されています。

そういう意味でブルガリアローズの世界的な評価の高さは、ブルガリア「バラの谷」の理想的な自然環境だけではなくブルガリア国立バラ研究所という認証機関の存在が大きな役割を果たしています。

現在、世界のローズ生産はイラン、トルコが急伸しています。イランなど日本人には見渡す限りの砂漠の国のようなイメージをしがちですが、ある地域では雪を抱いた山脈があり(スキーもできる)、その雪解け水が作り出す伏流水と安定した気候や穏やな環境はローズ栽培に理想的と言われています。

実は私は、元来この商売を長くやってきたワケではないので、まったく知りませんでしたが、イランが「バラの国」としてどれだけ歴史があり、またローズ栽培にとってどれだけ理想的な大地があるのか、ある貿易商さんに教えてもらいました。

この方はマスコミにもでてくる有名な方ですが、許可が出れば、受け売りになりますが、「イランのバラ」について後日おもしろ・詳しくご案内したいと思います。

一方、中国のバラですが、国が広いだけにローズ栽培に適した山岳地帯が、特に内陸部に点在しています。発展著しい沿海地域と比較すると貧しい地域が多く同じ中国国内ながら極端な貧富の差が生まれようとしています。

ローズ栽培は、山岳地帯の少数民族にとって有望な現金収入の可能性があり、国家を上げて、そして地域政府を上げての気迫充分な追い上げを見せています。これもまた別の機会にご紹介したいと思います。

一点だけ言えば、イランもトルコも中国も「ブルガリア国立バラ研究所」に相当する機関のプレゼンスとブランディングの弱さがまだ課題です。それへんが育つとローズの世界戦は激しさを増してくると思います。余談を許さない状況です。

(2008-03-02)
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