( 香水工場の )
香る生活
花の香気成分はナゾだらけ、ガスクロ体験 パート2
千葉大学「柏の葉キャンパス」は、秋葉原から出ている「つくばエキスプレス」で「柏の葉キャンパス」駅を降りて数分の距離です。3月も下旬に突入した3月21日、なんと農場では梅の花が全開(関東では梅は3月中旬くらいまでが見頃)です。周囲一帯に、梅のすばらしい芳香が漂よっていました。
隣には東京大学柏キャンパスがあり、目前には警察庁科学警察研究所のでかい建物が威容を誇っていますが、それ以外はいたってのどかの農園。のどかで穏やかな雰囲気がとても気に入りました。
ここに園芸研究の一環として花の芳香を分析している研究室があります。芳香が強い花なら成分のトップ3程度はガスクロで比較的簡単に分析ができますが、芳香が弱い花はガスクロでも成分が出てきません。今回は芳香が弱い花が分析機に掛けられていました。
私の立場は、分析に立ち会わせてもらう代わりにパフューマーを同行して「官能テスト」に協力するというものです。この種のテストは機械でガリガリとデータを取ったら官能テストで評価するのが一般的です。データは人によって確認できますし、人が感じる香りの印象はデータで裏付けできますので、双方にとってメリットがあります。
まずは開花している花で匂いの強い花をガラス容器やプラスチック袋で覆い、その中に充満する香気成分を注射器針状の樹脂製の試料に吸着させます。
花は種類によって芳香を強く発する時間帯や条件が違いますが、比較的多いのが夜明けから芳香を発しはじめ、よく晴れた日で気温が若干高くなると匂いを活発に発する傾向があります。これはハチやチョウたちの活動時間帯と一致しており、花の芳香は虫たちを誘うための武器なのかもしれません。
匂いの吸着は一昼夜かける場合もありますし、数時間のこともあります。花の種類や気温などの条件によっても芳香の出方が違うため、テストごとに試行錯誤です。これだけでも疲れる作業ですが、香気成分を吸着した試料をいよいよガスクロに掛けます。
大学では「ガスクロにシリンジを打つ」という表現をされていました。クールに言い方ですね。
ガスクロの分析機を起動してもしばらくは無反応でチャートは進みますが、数分から数十分程度でなにやら成分を検知し、チャートに心電図のようなピークを打ちますが、すぐに衰えます。チャートの横方向が時間、縦方向が成分濃度です。
このようなスパイク的なピークを打つ成分は、隣に連結されている質量分析機(マススペクトロメーター、MS)に送り込まれます。ガスクロは芳香成分を各成分ごとに分離するだけで、未知の成分の特定に対してはほとんど頼りになりません。
そのためガスマスはマススペクトロメーターと一体に結合されている製品が多いようです。このようにガスクロとマススペクトロメーターが一体化した装置は「ガスマス」(GC-MS、Gas Chromatograph-Mass Spectrometer、ガスクロマトグラフ質量分析装置)と呼ばれます。
ガスマスの中ではプラズマや強力な磁界などを掛けて成分分子を帯電・イオン化したりバラバラに分解するそうです。その分解されたさまざまパーツの種類と濃度から、装置内コンピュータのデータベースに保存されている数十万種類のデータと照合して分子構造や分子構成を推測し成分を特定します。このデータベースのデータ量も成分同定には違いが出ます。
有機成分のデータベースは毎年進化しているそうで常にデータベースを最新の状態にメンテしておくことも重要なようです(=お金がかかります)。
成分同定作業自体は多くがコンピュータがやってくれるので私たちは待っていればよいのですが、なんとできてきた結果は、・・・
たとえば、ある成分についてこのようにでました。
「リテンションタイム○○、CAS番号○○、分子式C10H18O、分子量154.14、リナロール、一致率85%」
つまり、同定された成分は確率ではじき出されます。この日の分析では10成分ほど検出されましたが、一致率は72%〜99%。
100%は一つもありません。
なるほど、最先端技術を持ってしても検出成分は保証されているわけでないんですね。99%なら常識的には「リナロールが含まれている」と断言してもよさそうですが、72%なら約3割の確立で違う成分ということになりますし、80%なら評価は分かれます。
「一致率」を導き出す計算式がどうなっているか不明ですが、これもGCMSメーカーのノウハウですから、メーカーが違えば計算式も違い、結果も違ってくることが推測されます。
最終的には、人が官能テストで「検査ではリナロールと出ているけど、リナロールの香りはするか?」と自分の鼻を頼りに試すしかありません。官能テストでも裏付けされればそのデータの確証は高くなります。
研究者の方々は一般に万事断定を避ける言い方をされる方が多い(反対は政治家の方々ですね)ように感じていますが、連想してしまいます。どこまていっても「100%」や「必ず」「絶対」という世界ではないことは確かです。ある意味、人生に似ているかも。
(※補足1)リナロールとは、花の芳香成分として代表的なものです。たとえば、バラの芳香成分は数百種類と言われていますが、代表的なものは・・・
ジメトキシメチルベンゼン、オイゲノール、メチルオイゲノール、リナロール、ファルネソール、β-イオノール、β-イオノン、ゲラニオール、シトロネロール、ネロール、フェニルエチルアセテート、フェニルエチルアルコール、・・・
(※補足2)GCMSの代表的なメーカー:米アジレント・テクノロジーや島津製作所など。今回はアジレント・テクノロジー社のGCMSを拝見しました。分析ソフトウェアが凄そうでクリクリしてみたかった〜。何年か前、島津製作所の田中耕一氏がノーベル賞を受賞されましたが、高分子の構造解析に関するGCMSがらみの研究成果からだったような・・・
(2008-04-01)
隣には東京大学柏キャンパスがあり、目前には警察庁科学警察研究所のでかい建物が威容を誇っていますが、それ以外はいたってのどかの農園。のどかで穏やかな雰囲気がとても気に入りました。
ここに園芸研究の一環として花の芳香を分析している研究室があります。芳香が強い花なら成分のトップ3程度はガスクロで比較的簡単に分析ができますが、芳香が弱い花はガスクロでも成分が出てきません。今回は芳香が弱い花が分析機に掛けられていました。
私の立場は、分析に立ち会わせてもらう代わりにパフューマーを同行して「官能テスト」に協力するというものです。この種のテストは機械でガリガリとデータを取ったら官能テストで評価するのが一般的です。データは人によって確認できますし、人が感じる香りの印象はデータで裏付けできますので、双方にとってメリットがあります。
まずは開花している花で匂いの強い花をガラス容器やプラスチック袋で覆い、その中に充満する香気成分を注射器針状の樹脂製の試料に吸着させます。
花は種類によって芳香を強く発する時間帯や条件が違いますが、比較的多いのが夜明けから芳香を発しはじめ、よく晴れた日で気温が若干高くなると匂いを活発に発する傾向があります。これはハチやチョウたちの活動時間帯と一致しており、花の芳香は虫たちを誘うための武器なのかもしれません。
匂いの吸着は一昼夜かける場合もありますし、数時間のこともあります。花の種類や気温などの条件によっても芳香の出方が違うため、テストごとに試行錯誤です。これだけでも疲れる作業ですが、香気成分を吸着した試料をいよいよガスクロに掛けます。
大学では「ガスクロにシリンジを打つ」という表現をされていました。クールに言い方ですね。
ガスクロの分析機を起動してもしばらくは無反応でチャートは進みますが、数分から数十分程度でなにやら成分を検知し、チャートに心電図のようなピークを打ちますが、すぐに衰えます。チャートの横方向が時間、縦方向が成分濃度です。
このようなスパイク的なピークを打つ成分は、隣に連結されている質量分析機(マススペクトロメーター、MS)に送り込まれます。ガスクロは芳香成分を各成分ごとに分離するだけで、未知の成分の特定に対してはほとんど頼りになりません。
そのためガスマスはマススペクトロメーターと一体に結合されている製品が多いようです。このようにガスクロとマススペクトロメーターが一体化した装置は「ガスマス」(GC-MS、Gas Chromatograph-Mass Spectrometer、ガスクロマトグラフ質量分析装置)と呼ばれます。
ガスマスの中ではプラズマや強力な磁界などを掛けて成分分子を帯電・イオン化したりバラバラに分解するそうです。その分解されたさまざまパーツの種類と濃度から、装置内コンピュータのデータベースに保存されている数十万種類のデータと照合して分子構造や分子構成を推測し成分を特定します。このデータベースのデータ量も成分同定には違いが出ます。
有機成分のデータベースは毎年進化しているそうで常にデータベースを最新の状態にメンテしておくことも重要なようです(=お金がかかります)。
成分同定作業自体は多くがコンピュータがやってくれるので私たちは待っていればよいのですが、なんとできてきた結果は、・・・
たとえば、ある成分についてこのようにでました。
「リテンションタイム○○、CAS番号○○、分子式C10H18O、分子量154.14、リナロール、一致率85%」
つまり、同定された成分は確率ではじき出されます。この日の分析では10成分ほど検出されましたが、一致率は72%〜99%。
100%は一つもありません。
なるほど、最先端技術を持ってしても検出成分は保証されているわけでないんですね。99%なら常識的には「リナロールが含まれている」と断言してもよさそうですが、72%なら約3割の確立で違う成分ということになりますし、80%なら評価は分かれます。
「一致率」を導き出す計算式がどうなっているか不明ですが、これもGCMSメーカーのノウハウですから、メーカーが違えば計算式も違い、結果も違ってくることが推測されます。
最終的には、人が官能テストで「検査ではリナロールと出ているけど、リナロールの香りはするか?」と自分の鼻を頼りに試すしかありません。官能テストでも裏付けされればそのデータの確証は高くなります。
研究者の方々は一般に万事断定を避ける言い方をされる方が多い(反対は政治家の方々ですね)ように感じていますが、連想してしまいます。どこまていっても「100%」や「必ず」「絶対」という世界ではないことは確かです。ある意味、人生に似ているかも。
(※補足1)リナロールとは、花の芳香成分として代表的なものです。たとえば、バラの芳香成分は数百種類と言われていますが、代表的なものは・・・
ジメトキシメチルベンゼン、オイゲノール、メチルオイゲノール、リナロール、ファルネソール、β-イオノール、β-イオノン、ゲラニオール、シトロネロール、ネロール、フェニルエチルアセテート、フェニルエチルアルコール、・・・
(※補足2)GCMSの代表的なメーカー:米アジレント・テクノロジーや島津製作所など。今回はアジレント・テクノロジー社のGCMSを拝見しました。分析ソフトウェアが凄そうでクリクリしてみたかった〜。何年か前、島津製作所の田中耕一氏がノーベル賞を受賞されましたが、高分子の構造解析に関するGCMSがらみの研究成果からだったような・・・
(2008-04-01)
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