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( 香水工場の )

香る生活


アンバーとアンバーグリス
香水業界では「アンバーグリス」を「アンバー」と略して呼ぶことは少なくありません。

しかし「アンバーグリス」と「アンバー」は全然違うものです。

きょうはよくある誤解を一つ紹介します。
明日は「ホワイトムスク」の誤解をご紹介します。


アンバーグリスとはクジラの腸内にできる結石です。

タコやイカのくちばしやその他消化できない部分をまとめて唾液や胃液で練って固めて排泄したもの。

比重が比較的軽いため海に浮いていたり海岸に打ち上げられたりしていました。

普通に考えれば「たんなる汚物の塊」でしかないのですが、海岸に打ち上げられたナゾの物体にはスペシャルな芳香がありました。

中国人たちはこのナゾの物体に漢方薬としての効能を発見します。

それが何なのか、どのようにしてできるのか、そしてどこからくるのかわかりませんでしたので古代の中国人たちは「龍のよだれ」が固まったものと空想したのでしょう。

あるいは、意図的にそんな空想話を作り上げたのでしょう。

(高貴でナゾの漢方薬ほど高価になりますから)

「龍のよだれの塊の香料」という意味で「龍涎香」(りゅうぜんこう)と呼ぶようになりました。

日本語でもアンバーグリスは「龍涎香」と呼ばれます。もちろん中国からの直輸入の言い回しです。


一方、龍涎香はアラビアでも香料としての価値が見出され、乳香や没薬のように宗教行事やイベントなどでの演出用お香として使用されるようになりました。

アラブ社会で使用されるお香には乳香や没薬、ムスク、サンダルウッド(白檀)などに加え、松脂(マツヤニ)の琥珀(コハク、アンバー)がありました。

当時、先進国アラビアから多くの科学技術と産物を輸入していたヨーロッパでは、琥珀(コハク=アンバー)の一種として龍涎香が紹介されたと考えられます。


琥珀(コハク=アンバー)とは樹脂そのものですが、長い年月の間に化石化したものです。

たんなる樹脂と違う点は長い年月経過していること、非常に固くなっており宝石と見違えるくらい美しい(ものもある)こと。

映画『ジュラシックパーク』では琥珀に蚊が閉じ込められていました。印象的な場面でした。

蚊が吸ったであろう恐竜の血のDNAから恐竜を生み出すという楽しくも恐ろしい映画でした。


話を戻します。ヨーロッパに持ち込まれた龍涎香は、琥珀(コハク=アンバー)の仲間と誤解されアンバーと呼ばれましたが、本来のアンバーと区別するために「灰色を意味するゲルマン語」(Wikipediaのアンバーグリスの説明)の「グリス」がつけられ「アンバーグリス」と呼ばれるようになったそうです。


というわけで、樹脂が固形化した「アンバー」(コハク、琥珀)とマッコウクジラの結石排泄物「アンバーグリス」とでは成分も由来も違うのです。

歴史的経緯でたまたま似たネーミングなっりました。

匂いは、似ているのでしょうか?・・・

「アンバー」(コハク、琥珀)の匂いを私は知りませんが、要は松脂ですから素敵なウッディの香りのはずです。

ヒノキ風呂やスギやヒバや・・・あれらも多くの人を恍惚とさせる匂いですよね。


一方、アンバーグリスはこれが結石排泄物かと疑いたくなる艶めかしくも怪しい輝きを放ちま
す。

ヨーロッパに行くと夜のパーティや劇場ではドレスアップしたマダムたちのお色気が漂っていますが、アンバーグリスは大人の色気にぴったりです。

ついでに言えばシルクのドレスに合いそう。


(2009-03-06)
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