( 香水工場の )
香る生活
北海道・ハマナスの話
タフでたくましいのに、繊細なハマナス・・(2024/05/30)
( ハマナスの丘を右手に見ながら海岸線を歩く。この砂丘のハマナス群生地にも他の植物の侵入が始まっており将来までハマナスが残るか不安・・ )
一つ前の記事「北海道・知床に行ってきた話」の続き。このレポートは知床に入る前の話です。
私たちは網走(あばしり)から斜里町(しゃりちょう)までのオホーツク海岸線を電車で移動。途中JR「原生花園駅」(げんせいかえんえき)という駅を降りました。
( 初夏から秋まで開設される無人駅「原生花園駅」。この右側は徒歩数分でラムサール条約の濤沸湖、左側は徒歩数分でオホーツク海ビーチ )
原生花園駅は「小清水原生花園」(こしみず・げんせいかえん)と呼ばれる湿地帯の中心的エリア。
「濤沸湖」(とうふつこ)湖岸にあり、かつオホーツク海の海岸が接している地点です。
濤沸湖は夏に湖岸一面が多彩な野生植物の花畑になりますが、その季節にはまだ遠く現状は "荒野" でした。
そこで海側に降りました。そこには見事なビーチが見渡す限り遠くまで続いていました。
(潮の匂いは全国同じだな~)
私たちは「小清水町駅」まで潮騒の砂浜を1時間歩きました。
(浜辺を歩く観光客は皆無で孤独に潮騒を楽しみたい人にもおすすめ~)
この海岸線のわずか100メートルほどの内陸は濤沸湖の湿地帯。
湿地帯と海を隔てるものはオホーツクの北風で積み上がった砂丘で、ここにハマナスが群生している。
北海道には有名なハマナス公園がいくつかありますが、このあたりは「自生」のハマナスの群生エリア。
人の手が加えられないハマナスを見たいとき、ここはおすすめです。
ハマナスの開花は夏でこの時点ではまだでしたが、ハマナスの新緑が力強く茂り始めるタイミングでした。
( この写真は以前撮影したハマナス、今回は時期的にまだ開花していません。いかにも原種バラを思わせる花の形状・色 )
ハマナスは日本在来種のバラ。北海道では海岸沿いの砂丘で群生している。
( この写真はphotolibrary.jpにて購入したハマナスの花。7月~8月くらいの写真だろう )
( 写真はphotolibrary.jpにて購入したハマナスの実=ローズヒップ、秋に実る )
ハマナスは太平洋側では茨城、日本海側では鳥取以北の海岸に自生する。夏に可憐な花を咲かせた後、秋に食用可能な真っ赤な実(ローズヒップ)をつける。
実がナシに似ていることで「ハマナシ」(浜梨)と呼ばれていたが、東北地方の方言からなまって「ハマナス」と呼ばれるようになった・・とネット内のあちこちに書かれている。
しかしあの実はナシに見えない、むしろザクロでしょ。お味の方もナシとは全然違う・・と感じるものの語源は不明です。
ハマナスは、北海道の海岸線でごく普通に生えているなじみの花で、普通すぎて現地ではとくに気にする人は多くないようです。
そして、おもしろいことにハマナスをバラと認識している人も少ない。
確かに花をちらりと見た限りでは「あれがバラ?」・・となります。優雅なバラとは少し趣が異なりますからね。
品種改良が繰り返されてきた現代バラと比較すると、そりゃ素朴に感じられて当然です。
ハマナスは日本原産のバラで、英語では「Japanese Rose」で通るので私たち日本人には自慢の花です。
しかもその芳香はダマスクローズを思わせる気品とパワー、さすが原種系バラ。
ハマナスは江戸末期、シーボルトによってオランダに持ち帰られ現在ではオランダの街路樹として定着しているとか・・え?ホント!?と驚きます。
ハマナスはとにかく棘(トゲ)が凄い・恐ろしい・危険!
私はオランダに行ったことがなくこの目でハマナス街路樹を見るまではこの話が全然信じられない。
ヨーロッパではシーボルト以降、ハマナスを親とした新種バラの作出が盛んだったので、もしかしたらトゲ軽減型ハマナスがオランダにはあるのかも?と空想している。
シューベルトの童謡「野ばら」には「小さなバラは言った、君を刺すよ」という歌詞がある。
小さなトゲがあって痛いかも?くらいの歌詞なんですが、野バラのトゲはおおむねこのレベル。
しかしハマナスのトゲは違います。「近寄るべからず、近寄る者ズタズタにしてくれる!」という強い意志があるし実際血まみれになる。
( 今回の旅行で撮影したハマナス。5月中旬、新緑が吹き出す季節。鋭いトゲが見えるが、まだ可愛い方だろう )
バラに詳しいわけではありませんが、私が知る範囲でトゲのサイズ、鋭利性、密集度・集積度、どれをとってもバラ界最強ではなかろうか?・・
私は10年くらい前、北海道の取材先さんにハマナスの小さな苗木を送ってもらい東京で育てたことがありますが、何をするにも血まみれになった。
運悪くそのハマナスは枯れましたが、枯れた後まで恐ろしかった・・
ところでハマナスはなぜ海岸で咲くのか?・・疑問に思いませんか?
わざわざ砂丘で咲かなくても?・・砂丘は植物にとって過酷な場所・・塩分を含む風、乾燥、乏しい養分・・ハマナスはなんとタフな花!と驚かされる。
しかしハマナスとて水分と肥料を好む、適切に与えれば大きく早く成長する、なのにわざわざ過酷な砂浜に生きる理由は・・それは競争に弱いから。
実際砂丘に水や養分を与えると他の植物の侵入が始まり、あっという間にハマナスは枯れる。
ハマナスは他の植物が生存しにくい土地に自分たちの生存場所を見いだしているようです。
ハマナスの生き方を見ると、タフな人間なのに心が繊細で社会の競争の中で片隅に追いやられがちな人をイメージしてしまう。
あるいは日本人って、世界の中でこんなポジションのような気がしてハマナスに自身を重ねる人もいそうな気がする・・トゲトゲ鎧で身を固めるいかつい姿なのに繊細な花なんですね・・
「和の香水」を標榜する当社にとってハマナス精油を使用した香水制作は長年の夢です。
青森県や北海道の網走・北見地方では、かつて精油採取が目的でハマナス栽培が行われ精油が生産されていた。
しかし現在それらの伝統や記憶は失われようとしている。
現在ハマナスから商業ベースで精油を採取している農園や企業はほぼないと思われる(研究目的は別)。
それは富良野のラベンダー畑が、香料畑から観光農園に変貌せざるをえなかった構図・・安価な海外産精油の流入、合成香料の出現、人件費の高騰とまったく同じです。
こんなハマナスです。
ハマナス精油からハマナス香水を創るという夢はありますが、当分実現にはほど遠いでしょう。
今回もお姿を拝見するだけの旅となりました。
ハマナスのすばらしさや可憐さが多くの人々に認識されハマナスが末永く生き残れることを祈りたい・・
(2024-05-30)
( ハマナスの丘を右手に見ながら海岸線を歩く。この砂丘のハマナス群生地にも他の植物の侵入が始まっており将来までハマナスが残るか不安・・ )
JR「原生花園駅」を下車
一つ前の記事「北海道・知床に行ってきた話」の続き。このレポートは知床に入る前の話です。
私たちは網走(あばしり)から斜里町(しゃりちょう)までのオホーツク海岸線を電車で移動。途中JR「原生花園駅」(げんせいかえんえき)という駅を降りました。
( 初夏から秋まで開設される無人駅「原生花園駅」。この右側は徒歩数分でラムサール条約の濤沸湖、左側は徒歩数分でオホーツク海ビーチ )
原生花園駅は「小清水原生花園」(こしみず・げんせいかえん)と呼ばれる湿地帯の中心的エリア。
「濤沸湖」(とうふつこ)湖岸にあり、かつオホーツク海の海岸が接している地点です。
濤沸湖は夏に湖岸一面が多彩な野生植物の花畑になりますが、その季節にはまだ遠く現状は "荒野" でした。
そこで海側に降りました。そこには見事なビーチが見渡す限り遠くまで続いていました。
(潮の匂いは全国同じだな~)
オホーツク海沿岸のハマナス
私たちは「小清水町駅」まで潮騒の砂浜を1時間歩きました。
(浜辺を歩く観光客は皆無で孤独に潮騒を楽しみたい人にもおすすめ~)
この海岸線のわずか100メートルほどの内陸は濤沸湖の湿地帯。
湿地帯と海を隔てるものはオホーツクの北風で積み上がった砂丘で、ここにハマナスが群生している。
北海道には有名なハマナス公園がいくつかありますが、このあたりは「自生」のハマナスの群生エリア。
人の手が加えられないハマナスを見たいとき、ここはおすすめです。
ハマナスの開花は夏でこの時点ではまだでしたが、ハマナスの新緑が力強く茂り始めるタイミングでした。
( この写真は以前撮影したハマナス、今回は時期的にまだ開花していません。いかにも原種バラを思わせる花の形状・色 )
ハマナスとは?・・日本の原種バラ
ハマナスは日本在来種のバラ。北海道では海岸沿いの砂丘で群生している。
( この写真はphotolibrary.jpにて購入したハマナスの花。7月~8月くらいの写真だろう )
( 写真はphotolibrary.jpにて購入したハマナスの実=ローズヒップ、秋に実る )
ハマナスは太平洋側では茨城、日本海側では鳥取以北の海岸に自生する。夏に可憐な花を咲かせた後、秋に食用可能な真っ赤な実(ローズヒップ)をつける。
実がナシに似ていることで「ハマナシ」(浜梨)と呼ばれていたが、東北地方の方言からなまって「ハマナス」と呼ばれるようになった・・とネット内のあちこちに書かれている。
しかしあの実はナシに見えない、むしろザクロでしょ。お味の方もナシとは全然違う・・と感じるものの語源は不明です。
バラと認識されないバラ
ハマナスは、北海道の海岸線でごく普通に生えているなじみの花で、普通すぎて現地ではとくに気にする人は多くないようです。
そして、おもしろいことにハマナスをバラと認識している人も少ない。
確かに花をちらりと見た限りでは「あれがバラ?」・・となります。優雅なバラとは少し趣が異なりますからね。
品種改良が繰り返されてきた現代バラと比較すると、そりゃ素朴に感じられて当然です。
日本のバラ、ハマナス
ハマナスは日本原産のバラで、英語では「Japanese Rose」で通るので私たち日本人には自慢の花です。
しかもその芳香はダマスクローズを思わせる気品とパワー、さすが原種系バラ。
ハマナスは江戸末期、シーボルトによってオランダに持ち帰られ現在ではオランダの街路樹として定着しているとか・・え?ホント!?と驚きます。
北ヨーロッパに定着したハマナス
ハマナスはとにかく棘(トゲ)が凄い・恐ろしい・危険!
私はオランダに行ったことがなくこの目でハマナス街路樹を見るまではこの話が全然信じられない。
ヨーロッパではシーボルト以降、ハマナスを親とした新種バラの作出が盛んだったので、もしかしたらトゲ軽減型ハマナスがオランダにはあるのかも?と空想している。
ハマナスのトゲは最強かも?
シューベルトの童謡「野ばら」には「小さなバラは言った、君を刺すよ」という歌詞がある。
小さなトゲがあって痛いかも?くらいの歌詞なんですが、野バラのトゲはおおむねこのレベル。
しかしハマナスのトゲは違います。「近寄るべからず、近寄る者ズタズタにしてくれる!」という強い意志があるし実際血まみれになる。
( 今回の旅行で撮影したハマナス。5月中旬、新緑が吹き出す季節。鋭いトゲが見えるが、まだ可愛い方だろう )
バラに詳しいわけではありませんが、私が知る範囲でトゲのサイズ、鋭利性、密集度・集積度、どれをとってもバラ界最強ではなかろうか?・・
私は10年くらい前、北海道の取材先さんにハマナスの小さな苗木を送ってもらい東京で育てたことがありますが、何をするにも血まみれになった。
運悪くそのハマナスは枯れましたが、枯れた後まで恐ろしかった・・
ひ弱で繊細なハマナス
ところでハマナスはなぜ海岸で咲くのか?・・疑問に思いませんか?
わざわざ砂丘で咲かなくても?・・砂丘は植物にとって過酷な場所・・塩分を含む風、乾燥、乏しい養分・・ハマナスはなんとタフな花!と驚かされる。
しかしハマナスとて水分と肥料を好む、適切に与えれば大きく早く成長する、なのにわざわざ過酷な砂浜に生きる理由は・・それは競争に弱いから。
実際砂丘に水や養分を与えると他の植物の侵入が始まり、あっという間にハマナスは枯れる。
ハマナスは他の植物が生存しにくい土地に自分たちの生存場所を見いだしているようです。
重なって見える人も・・
ハマナスの生き方を見ると、タフな人間なのに心が繊細で社会の競争の中で片隅に追いやられがちな人をイメージしてしまう。
あるいは日本人って、世界の中でこんなポジションのような気がしてハマナスに自身を重ねる人もいそうな気がする・・トゲトゲ鎧で身を固めるいかつい姿なのに繊細な花なんですね・・
ハマナス精油?
「和の香水」を標榜する当社にとってハマナス精油を使用した香水制作は長年の夢です。
青森県や北海道の網走・北見地方では、かつて精油採取が目的でハマナス栽培が行われ精油が生産されていた。
しかし現在それらの伝統や記憶は失われようとしている。
現在ハマナスから商業ベースで精油を採取している農園や企業はほぼないと思われる(研究目的は別)。
それは富良野のラベンダー畑が、香料畑から観光農園に変貌せざるをえなかった構図・・安価な海外産精油の流入、合成香料の出現、人件費の高騰とまったく同じです。
ハマナス香水?
こんなハマナスです。
ハマナス精油からハマナス香水を創るという夢はありますが、当分実現にはほど遠いでしょう。
今回もお姿を拝見するだけの旅となりました。
ハマナスのすばらしさや可憐さが多くの人々に認識されハマナスが末永く生き残れることを祈りたい・・
(2024-05-30)
< 『黄金星(こがねぼし)』再開します || 北海道・知床に行ってきた話 >
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