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( 香水工場の )

香る生活


ル・モンドが見た日本の香水事情
日本の香水市場の貧弱さに世界が驚くけど、逆になんで?と思う(長文) (2019/01/16)

香水砂漠
( クーリエ・ジャポンの記事:日本は「香水砂漠」 )


ル・モンドの記事


日本の香水事情に関するル・モンドの記事がクーリエ・ジャポンに。

1年以上前の記事だが、まだおもしろく読めるので、私の意見も交えながら、ご紹介。

クーリエ・ジャポンは、世界の有力紙から横断的に話題を集めてきて日本語訳しているサイト。

ル・モンドは、原文じゃ、私は逆立ちしても読めませんからね、助かります。

では、さっそく → 世界的ブランドが次々と敗れ去っていく日本は「香水砂漠」



クリスマスに売れまくる香水が、日本では・・




世界中のクリスマス商戦で売れまくる「香水」だが、日本ではさっぱり。


ここはタイトルの次に来るリードの部分だが、いきなり直球だ。

「世界中のクリスマス商戦で売れまくる香水」はホントですね。

クリスマスは、なぜか世界中で香水が売れるわけだが、日本は例外。

欧米のクリスマス・プレゼントの人気上位は、毎年流行に左右され、激しく入れ替わる。しかし、香水だけは、私が意識するようになった15年前から、常にトップ5内をキープしている。

(毎年きちんと調査しているわけでないので、抜けているかもしれない)

だから、香水ブランドにとって、クリスマスは年間の最大イベント、どのブランドもクリスマス商戦に向けて入念な生産計画をたてることが、香水業界の"常識"。

その常識は日本ではまったく通用しない。ル・モンドの記者には、そこが驚きだったようだ。



「好きな香りを自由にたしなむこと」は「空気を読まないこと」だと考える日本の国民性。


場違いな香水の付け方をしていたら、欧米でも同じと思いますが、日本では、より抑止力が強い文化があるということでしょう。

確かに香水を下手にプンプンさせていたら、周囲からの無言の圧力、ありますよね。

湿度が高く、人口密集度が高いニッポンですから、人の調和を大切にする我が国の文化としてありではないかと。



日本人男性は香水を「まったく付けない」?




60歳以上の日本人男性は特別な場合を除いて香水をまったく使用しない。
女性は少しずつ大切に使用することもある。


今どきの若い世代は、香水も普通に使いこなしているように見えるが、たしかに高齢の日本人男性だと、あまり香水のイメージは沸かない。

しかし「まったく使用しない」わけではない。断言できる。

なんとなれば、未だ『MG5』や『バルカン』は、いろいろなコスメショップに鎮座しているのだ。

そして、売れている!

資生堂『MG5』(1967年)、カネボウ『バルカン』(1976年)といっても若い世代には、ピンとこない響きだろう。

しかし、昭和の真っ只中で青春を過ごしたお父さん・おじいちゃんには、甘酸っぱい思い出に違いない。

そして、彼らは今でも、MG5やバルカンを買うのだ。

MG5
( 資生堂のメンズコスメ:MG5シリーズは、昭和のオシャレな男たちの心を鷲づかみにした )


MG5は、驚異のロングセラーでありながら、今でもすごい収益率を誇る。

買い手は60代~80代のご高齢世代だが、まったく販売費・宣伝広告費をかけなくても、売れていくことろが凄い、実に凄い!

MG5は、香水ではなく整髪料・ヘアスプレーだったが、昔の日本男児たちは、これらを香水やコロンとみなして使っていた(と私は分析する)。


日本人は香水を知らない?




フランスはルイ14世の時代から香水文化が発展しているが、日本人は歴史的に香水に対してまったくなじみがないのだ。


日本人は香水になじみがないと言われても、本格的な輸入がはじまって100年は過ぎているわけで、なじみがないわではない。

実際、今どきは、高校生くらいで香水にトライする若者は多い。

案外、世界標準だろう。

香水の目覚めるきっかけは、西洋であれ東洋であれ、男女ともにだいたい異性へのアピールだ。

その点も日本は世界標準だ。

ただ、日本は、その後が続かないのだ。香水を使い続けるモチベーションはすぐに失われる。

ル・モンド記者が言うように「なじみがない」わけでない、関心や興味が途絶えるのだ、と私は思う。

(そして、なぜ途絶えるのか、という問題こそが最大の問題だ・・・つまり、西洋の大ブランドが提案する香りと日本人が求める香りの間に大きな溝があるのでは?)



日本人の生活に香水の入る余地はない?




いったいどうすれば市場を開拓することができるだろうか。
残念ながら、いまの日本人の日常生活に、香水の入る余地は少ない。


「日本人の日常生活に、香水の入る余地はない」と早くも結論が来た。

残念ながら同感。

日本は攻略不可能な市場という意見は、おおむね、世界の香水業界の共通認識かな。

先日、テレビを見ていたら、フランス大手のブランドさんが、プライムタイムに香水のCMを流していた。

(「わー、ペイしないだろうな」という気持ちで眺めた)

大金を投下してテレビCMに挑む姿を見て「あのブランドさん、まだまだ、やる気だな」と思う人もいれば、あのCMで香水が売れるとは思わないが「法人税を払うくらいなら、広告費で利益圧縮かな?」と邪推する人もいるだろう。



日本の香水市場は、激寒




日本の美容市場全体において、香水の占める割合は10%にも満たない。
男性の香水となると、数値はゼロに近づくのである。


日本のコスメ市場に占める香水の割合は「10%」?

意外にすごいじゃないか!と思う。

マーケットシェアに関しては、メーカー出荷価格、小売売上額など、いつくかの統計のやり方があると思うが「10%」は聞いたことがない。

ル・モンドの記者さんは、さらに嘆くと思うが、私の推測では、日本のコスメ市場に占める香水の割合は「2%~3%」といったことろか。

それほど、香水は売れないのだ、そして、これが現実だ。

だから日本のコスメブランドは、めったに香水に手を出さないし近寄らない。昔、香水を出していたブランドなら、おおむね、すでに撤退済だ。



フランス人を驚かせよう




百貨店では、化粧品と香水を同時に販売しようと試みている。だが、販売員に寄せられる真面目な質問の内容を見ると、フランス人としては驚くばかりだ。

「香水は肌にスプレーするのですか?」
「洋服につけるのですか?」
「何プッシュすれば効果的なのですか?」

このような厳しい現状について・・・


「このような厳しい現状について」という表現に、絶望感がにじみますね。

しかし、百貨店の販売員に、このような質問をしている人を、私は見たことないし、あまり空想できない。

これは、香水を使ったことがない高校生が、はじめて香水をトライしようとするときに、湧いてくる質問のようにも感じる。

この記述じゃ、「日本人は全員、まったく香水を使ったことがない」という印象だ、まあ、フランスの読者を驚かせるため、ちょっと盛ったよ、ってところではなかろうか。



LVMH のセフォラでさえ撤退




LVMH傘下の大手香水販売店であるセフォラはアジア全体で巨大な売り上げを残してきたが、日本では進出してからわずか2年後の2001年末に、7店舗すべての閉店を余儀なくされた。


セフォラとは、フランスのセレクトショップ風コスメ専門店。おしゃれなパフューマリー。

日本にも進出したが、2年で撤退した。

それくらい日本市場は厳しいという説明なのだが、私には、逆に大金を投資してやってきた外資系の企業さんが、こんなに短期間であきらめることに驚く。

シリコンバレーのベンチャー企業なら、これくらいのスピード感はあるだろうが、日本では「石の上にも3年」というではないか、判断が性急のようにも思う。

投資家たちに対して、すぐに結果を出すことが求められる現在の資本主義では、"時間をかけてマーケットを育てる" という余裕はないのかもしれない。

ブランドビジネスが、資本主義化すると、こうなるのだ、という事例かな。



まるでジョーカーのように押し付け合う香水




せっかく香水が売れたとしても、日本では使われないことが多い。
香水をプレゼントされた日本人は開封しようとしないのである。
ときには、触れないまま友人や家族に譲ったりする場合まである。

高級感がある有名ブランドのトレードマークが入っていると、かえって開封されず、まるでジョーカーのような押し付け合いが始まってしまう。


この記事で一番笑った箇所。

「まるでジョーカーのような押し付け合いが始まってしまう」

プレゼントされても、日本人の微妙におかしな光景が見えてくる。

ニヤリとしてしまった。



日本人の香りの好み




「濃厚で深みのある香りが好まれる中東とは対照的に、日本では軽さのあるフレッシュな香りが好まれるでしょう」

さらに、ロレアルリュクスのクリエティブディレクターであり、香水部門の責任者でもあるカリーヌ・ルブレは、こう提案する。

「日本の顧客向けには、ほのかな花の香りに繊細さを重ねて、果樹園のような香り、さらにシトラス系の香りを混ぜるといいと思います。それらは、料理にも使用される柚子のような柑橘系の香りにもつながります。日本人には清潔感のある香りが好まれるでしょうね」


100%同感でございます。

日本人の嗜好をよくおわかりですね。



臭い香りを嗅がない日本人




(パリ・ディドロ大学で日本の現代社会学を教えるジュリアン・マルティーヌによると) 日本人は地下鉄のような公共の場であっても清潔感を大事にするという。

日本の小学生は、学校に入るときに下駄箱で靴を脱いで、上履きに履き替える。子供のうちから、臭い香りを嗅ぐことはありえない生活を送っているのである。


下駄箱の話は、よい観察力だなと感心する。一事が万事、日本人は「子供のうちから、臭い香りを嗅ぐことがない」。

この部分は、私は日本と世界の香水事情を分けている根本的な源流の一つではないかと思う。

パリは、世界の大都市の中でもっとも美しく物語になる街だと思う。

たとえば、世界の映画のタイトルに「パリ」が入る映画は無数にある。「ニューヨーク」や「ロンドン」よりも「パリ」の方が多いと思う。

また、たとえば、ブランド名の一部に「パリ」と入れるコスメブランドは多い。ブランド発祥の地が「パリ」であることに対する誇りの現れだ。

こんなに素敵なパリだが、ほんの100年前までは、糞尿と生活排水が渾然一体として街中を流れていた街である。

アパルトマンの部屋で排出された糞尿を窓から捨てる人も多かったので街中ウンコだらけ、悪臭は当然のこと。

多少後ろめたさを感じる人は、セーヌ川までオマルを運んで捨てていたようだ。

(生活とはこういうことなのだ、とボクは思う、「人間とは糞尿である」)

同じ時代、江戸の街では地下に上水道が引かれていた。

(これが世界の水道史に輝く玉川上水だ、ローマの上水道には負けるけど)

下水道こそなかったが、糞尿は畑の肥料として売買されるため、商品として回収され、水路経由で江戸郊外に輸出されていた。

つまり、排泄物の循環システムが確立していただけに、江戸の街の清潔感は、パリやロンドンよりも高かったと思われる。

ヨーロッパは中世まで、自宅内で牛や馬を飼っており、寝起きも牛や馬と同じだったりしたのだから、西洋人のニオイに対する抵抗力や許容範囲は、歴史を通して、鍛えられていった。

日本は、昔から悪臭も少ない、肉食が少ないので体臭も少ない、それが逆に様々なニオイに対する日本人のニオイの許容範囲を狭めたのかもしれない。



性的な魅力と香水




日本市場の特徴は、香りに対してユニセックスな点だという。満員電車など他人との距離が近い環境では、香りは女性らしくても男性らしくても敬遠される。


ここも同感。

ニオイに対する逞しさを失っている日本人は、性的な活力も魅力も弱り気味かもしれない。

それが香りの嗜好にも影響しているのではないか。



世界市場の「3%」もあれば立派だ




魅力のある市場であるにもかかわらず、日本は世界の香水の売り上げの3%にも満たない状況になっている。


世界市場の「3%」もあるの?

逆に驚く。私の感覚では「1%未満」。




ル・モンドの結論を、あなたはどう思う?




日本は、香りの分野において「グローバリゼーション」の入り口にすら立っていないのである。


これがこの記事の最終結論。

日本は「グローバリゼーションの入り口にすら立っていない」・・・なるほど、ボクらは香水後進国だったのだ。

ただ、グローバリゼーションの定義にもよるかな。

日本の香水市場は貧弱で、香水を使う人も少ない、これが後進国の根拠としてあげられた。

しかし、香水に限らず「香り」という範囲で考えるなら、日本には、香道のように香りの楽しみを文化まで高めた歴史があるし、お香の歴史も重厚だ。

そういう国は多くない、日本が香り後進国ってことはないと思う。

ただ、人・家畜・糞尿・生活排水が渾然一体としたケオスな環境を日本人は、何世紀も何世紀も、体験せずに暮らしてきた。

そんなヤワな歴史が、現在の日本人のニオイに対する包容力や許容力・抵抗力・活力を弱め、香りの分野で、ひ弱な現代日本人を生み出しただろうということは空想できる。

たしかにタフでない、清流のような清らしい香りしか評価しない国民というのも、世界的には珍しい国民なんだろうな、という気持ちでこの記事を読み終えた。


楽しい記事をありがとう!


(2019-01-16)
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