( 香水工場の )
香る生活
香水ビジネス2、アパレルブランド香水
アパレルさんからの問い合わせ
オリジナル香水の制作を生業(なりわい)とする当社にはオリジナルフレグランスの開発案件の問い合わせがきます。
オリジナルフレグランス制作の目的はだいたいはノベルティかギフト商品が大半ですが、今年は少し様子が違います。
第一にアパレルさんからの問い合わせが多くなったこと。
第二にノベルティやギフト商品ではなく、販売目的の案件が増えたこと。
日本では厳しいオリジナルブランド
このブログでも繰り返し述べているように日本の極端に小さな香水市場を考えると販売目的のオリジナル香水制作にはかなりのリスクが伴います。
つまり数量が出ない上に、わずかに残されたパイはほぼすべて欧米ブランドさんに押さえられているのが実状で、百貨店など有力小売りさんの間では「フレグランスでは数字は作れない」という意見が支配的です。
販売を計画されているお客様にはこのような事情を必ずお話します。
が、果敢に挑み、そして成功した事例は、と言えば、当社・他社の案件を問わず、成功事例はほとんど見ません。
香水とアパレルブランドの関係
実は、ファッション・ブランドと香水ビジネスには、切っても切れない関係があります。
アパレルさんから問い合わせが多いのは当然のことですが、ようやく日本でもその傾向が出てきたと私たち香水業界では歓迎ムードです。
今日は「なぜ、ファッション・ブランドと香水なのか?」にスポットを当てたいと思います。
この中で香水ブランドは何社?
突然ですが問題です。よく売れている香水のブランドさんをいくつか上げてみました。約20ブランド。この中で香水を専門にしているブランドさんは、何社あるでしょうか?
- シャネル
- ゲラン
- クリスチャン・ディオール
- ブルガリ
- ニナ・リッチ
- カルバン・クライン
- マーク・ジェイコブス
- アナスイ
- エルメス
- ラルフ・ローレン
- ジバンシー
- アルマーニ
- イッセイ・ミヤケ
- エスカーダ
- グッチ
- ジャン・ポール・ゴルチェ
- ティファニー
- バーバリー
- フェラガモ
- ランコム
- ランバン
あえて言えば2社。それでも完全に「香水専門ブランド」というわけではありません。
ゲランはもともと香水から出発したブランドさんですが、高級スキンケアや基礎化粧品にも注力しています。
また、ランコムは、創業者アルマン・プティジャン自身が調香師ということもあり香水には力が入りますが、日本でのイメージはどちらかというとスキンケアや鮮やかな色彩のメイクアップではないでしょうか。
それ以外のブランドは、ファッション・ブランドやモード・ブランドとしてスタートしています。シャネル、ディオール、ニナ・リッチ...婦人服、紳士服、スーツ、コート、スポーツウエアなどターゲットとするカテゴリーは違ってもだいたいアパレルです。
逆に上記でアパレルからスタートしていないブランドといえば、ブルガリ(宝飾)、エルメス(馬具)、ティファニー(宝飾)、フェラガモ(靴)、とかなり少数派なんですね。
このようにアパレルをはじめとする多くのブランドがこぞって香水をブランド・アイテムに加えている現状がわかります。
パリ・コレクション
ルーヴル美術館に隣接して展開されるパリコレは、由緒正しきファッションショーです。
ファッションショーとしてはもっとも強力に世界のバイヤーとマスコミを引き寄せる権威あるショーですが、大きく「プレタポルテ」と「オートクチュール」に分かれます。
「メンズ」もありますが、ここでは無視します。
もともとパリコレは、1910年代にオートクチュール・コレクションから始まりました。
1940年代に1万人以上だったオートクチュールの顧客は現在では1,000人とも言われます。世界の大富豪が1,000人集まったところで各ブランド間で顧客を取り合いすれば、そのビジネスはすぐに限界に達します。
オートクチュールに対して、1960年代には高級既製服の新作発表イベントとしてパリ・プレタポルテ・コレクションが始まります。
現在、パリコレと呼べば、プレタポルテを指すと思います。
赤字のオートクチュールを埋める香水
1970年代、すでにほとんどのブランドが赤字のオートクチュールに見切りをつけ、撤退するか、広告としてのファッションショーと割り切り、広告活動やマーケティングとして参加しているブランドが多くなりました。
この赤字を埋める即効薬が香水だったのです。
ロマンティックな商品なのに実質的なミッションも帯びていたんですね。
アパレルのビジネスモデルは厳しい
アパレルは工業製品としては致命的な欠点があります。工業製品はロングセラー商品のように同一商品を長期間量産してこそが利益率がマックスに振れますが、衣服の場合、毎年同じ服を作り続けることができません。
また、作りすぎて一時のユニクロのように自分と同じ服を着た人間が街中で鉢合わせる由々しき事態を私たちは嫌います。
原理的には量産可能なプレタポルテといえども、その街に人口あたり何枚までというような制限を設けているブランドさんは多いと思われます。
香水は優れたビジネスモデル
それに比較すると香水は、同じ香りは好ましくないにしても人口あたりの許容範囲はファッションよりグンと大きく、一シーズンで終わるファッションよりトレンドの期間も長いため同一商品で長年販売することができます。
シャネルNo.5などはすでに100年も売れ続けているのですが、ファッションでは考えにくい現象です。
香水は、商品自体がロマンティックで、ファッションの延長線上のアイテム、ファッションの最後を決めるアクセントです。
だから、香水はファッションとコーディネートすることも可能で、アイテム間の相性は抜群です。ファッションブランドが香水をリリースしても商品ストーリーとしてはまったく不自然さを感じさせません。
イメージの相乗効果
ちょっと商人的な発想で恐縮ですが、香水は高価(利益率がよい)で、小さく(在庫が簡単)、生鮮食料品のように腐ることもなく(保管性がよい)、ブランドイメージを損ないません。
むしろイメージの相乗効果さえ期待できます。
しかも消耗品なので繰り返し購入いただけるというリピート性もあります。
単なる工業製品でない点がブランドとの相性のよさ
香水の制作は、工業製品でありながら調香師が香りを創るとういう芸術性を感じさせる部分があります。
その上、スキンケアに比較するときわめて安全性の高い化粧品なのです(香水によるトラブル事例は化粧品の中では稀少)。
大きな設備の必要なく製造可能な点も見逃せません。
世界最大のブランド帝国LVMHグループには、モエ・ヘネシーというお酒のブランドが入っています。
LVMHグループの収益構造に詳しくないので素人推測の域ですが、お酒は全世界の人が顧客になりえて日常的に飲んで繰り返し購入しますから、案外モエ・ヘネシーはLVMHグループの安定的で実質的な収益基盤になっているのではと予測されます。
香水も、LVMHに対するモエ・ヘネシーの位置づけに似た構造になっていると感じています。
つまり、ファッションブランドにとって香水はイメージがよくて量産効果が効きリピート性があり、収益に貢献する黒子のような存在ということ。
ブランド・ポートフォリオ
香水とはファッションブランドを支える代表的な商品ポートフォリオアイテムなのです。
一つのアパレルブランドを立ち上げ、ポートフォリオを組みたければ、商品そのものがロマンティックな香水はもっとも有望な一品ということができます。
日本でもアパレルのブランドさんが、ごく普通のこととして香水をアイテムに加えるようになる時代がもうすぐ来るような気がしてなりません。
(2006-09-19)
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